第3回 国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima (IMART2022)開催レポート

 

10月21日(2日目)

 

本セッションではアニメプロデュース会社の代表取締役3名が登壇。ビデオメーカーや映画会社に所属しない独立プロデューサーの視点から、アニメ業界の変化や未来について議論を交した。
特に盛り上がりを見せたのは、製作委員会の話題だ。複数の企業が出資する製作委員会方式は、近年では不要論が叫ばれることさえあったが、平澤氏はアニメ製作において重要なのは「リスクをどう分散するか」だと断言。細井氏も「リスクを分散しながら本数を支えていく土壌がないと、そもそもアニメが作れない」と製作委員会の必要性に同意した。現在では配信プラットフォームの参入によって単独出資で作られる作品も出てきたが、業界全体の本数をカバーできる訳ではない。「アニメの本数を10分の1にして、10倍のクオリティで作ればいい」という意見に対しては、里見氏がアニメでは選択と集中は成り立たないと否定する。もし単独出資の作品しか存在しなければ、人気原作や有名クリエイターによる手堅い企画だけが求められてしまう。リスク分散によって成立した尖った企画やチャンスを得たクリエイターは多く、製作委員会方式は今後もアニメ業界で役割を果たしていくはずだと語った。

 

マンガ・アニメ産業が複雑化する中、企業には中長期的な戦略が必要とされているのではないか。そんな危機意識から、経営コンサルタントの二人を迎えて行われた本セッション。正木氏は「なぜエンタメ企業にビジネス戦略が必要か?」という問いに対し、「自分の行動を最適化して勝てる状況を作るため」と答える。ビジネス環境の変化はドラスティックであり、たとえ現在の業績が良くても今後勝てるかどうかはわからない。戦略を蔑ろにしてしまうと、もし現場のがんばりによってヒットアニメが生まれても、なぜか会社は赤字になってしまうということもあり得る。
森氏のプレゼンでは、メディア・エンタテイメント業界の成長率は全世界のGDPよりも伸びが良いこと、しかし日本の成長率は横ばいが続いているため海外のマーケットに進出しないと今の売上は維持できないことなどを、具体的な数字を挙げながら解説。海外市場に立ち向かうための戦略がよくわかるセッションとなった。

 

NPO法人ANiC(アニメ産業イノベーション会議)によるセッションでは、NFTやDAO、メタバースなどのキーワードを交えながら、アニメとWeb3の未来を探った。トピックには「DAO的な制作体制から生まれるアニメ」「NFTはマネタイズの助けとなるか?」「Web3はアニメの未来をどう変えるのか?」の3つを設定。アニメ制作会社の代表を務める平澤氏は組織経営、アニメーターのGOZ氏は個人、ハッカソンなどを企画・運営する浜中氏はコミュニティと、それぞれの立場からディスカッションした。
ここ数年はコロナ禍によってリモートでのアニメ制作を余儀なくされたが、平澤氏は必ずしも顔を合わせなくても一定以上のクオリティが作れるようになったと、経営者としての実感を述べる。一方でGOZ氏はクリエイティブな部分はオフラインでしかわからないことも多いと語り、オンラインのミーティングという新しい選択肢を状況に応じて使い分けることの重要性が示唆された。セッションではANiCが主催したハッカソン「アニメ×ゲームジャム」も紹介。オンライン上で出会ったクリエイターたちがアニメを作るという試みの成果が発表された。

 

マンガ・アニメはアートなのか-メディア芸術再考

14:30-15:30  としま区民センター6F 
動画ページ

1997年度に始まり今年25年の歴史に幕を閉じた文化庁メディア芸術祭に触れつつ、その後の文化の在り方について識者たちが議論を重ねた。まず議題となったのが「メディア芸術」の定義だ。藤田氏は文化芸術基本法に「映画、漫画、アニメーション及びコンピューターその他の電子機器等を利用した芸術」とあるが、実体はよくわからない謎の概念だと喝破する。
松永氏は90年代半ばまでメディアという言葉は、オーディオビジュアルなものを指す場合が多かったことに言及。小松氏もメディアアートは、コンピューターや大型プロジェクトなどの先端的なテクノロジーを使ったアート表現を指していたと語る。しかし90年代後半になると、その文脈にアニメやマンガが組み込まれるようになったという。
藤津氏は行政がマンガやアニメに機運を感じ、オーソライズをしようとした結果、本来なら同じ傘に入らないものが「メディア芸術」として同居してしまったのではないかと推測。その権威付けの位置はある程度機能したが、歴史的な経緯によって生まれた「鬼子」のような側面があると語った。

 

KADOKAWAの土方氏はマンガとアニメはかつては別物だと考えられてきたが、近年は原作重視で映像化される傾向にあると話す。SNSでファンの感想がダイレクトに原作者に届くようになったことが影響しており、今はネットでの反響を織り込んでアニメを手がけるのが大前提になっているという。
アニメスタジオに在籍した経験を持つ講談社の古川氏は、マンガとは異なりアニメは集団制作のため、工程を遡っての修正が難しい点に言及。そうしたアニメ特有の作り方がマンガ家には理解されずにトラブルが起きる場合もあるため、お互いに尊重した上で信頼関係を構築することが重要だと説く。
セッション中には今年映画がヒットした『五等分の花嫁』の話題も飛び出した。古川氏によると原作のラストまでアニメ化できたのは、グッズの貢献が大きかったという。タイアップや商品化は気を付けなければ作品の世界観を壊してしまうが、本作では版権イラストなどでも5人のヒロインを全員平等に扱うことを徹底し、それがユーザーにも受け入れられたのではないかと振り返った。

 

本セッションではマンガやアニメのアーカイブを実践する登壇者がプレゼンテーションとトークセッションを行った。大石氏は秋田県の横手市増田まんが美術館の取り組みについて、国内ではまだ価値付けが定まっていないマンガの原画を貴重な文化遺産と捉え、矢口高雄を筆頭に郷土出身作家の生原稿を中心に保存していることを紹介した。
山川氏はアニメ制作会社では中間生産物の重要性が見直されてはいるものの、取捨選択を誰がどのように行うのかという問題に触れる。たとえば著名なアニメーターが多数参加した『人狼 JIN-ROH』であっても、一度は原画を破棄するように指示を受けたそうだ。企業にとって何に価値があるのかを判断するキュレーターの必要性や、国や教育機関とどう連携すればいいのかなどの課題を提起した。
辻氏はアニメと特撮の中間生成物を保存するATACの設立経緯をプレゼン。中間生成物にはクリエイターの演出意図や創意工夫が詰まっており、先人の技術と知恵を次の世代へ伝え、文化敵価値を育成する側面もあると語った。

 

モデレーターの福井氏は刺激的なセッション名を付けた理由について、Webtoonのブームはファンタジー作品が牽引したが今は粗製濫造になっているのではないかという問題提起をしたかったと語る。それを受けて李氏は、Webtoonは韓国でも日本でも成長を続けており危機論は杞憂だと一蹴するも、Webtoonを誤解している人も多いと苦言を呈した。日本では見開きマンガの視点からWebtoonを分析する傾向にあるが両者の差は非常に大きく、李氏自身もマンガ編集部で学んだ常識がWebtoonの世界では通用しなかったという。
元マンガ家の芝辻氏は、Webtoonは分業制ということもあり、しばしば作品が丸くなってしまう傾向があるとコメント。そのため韓国のヒット作を分析した勉強会を行うなど、日本人がWebtoon独自の演出を学ぶ機会を設けている。岩本氏は韓国もWebtoonの収益化に十数年かかったことに触れて「持続が何よりも大事」だと断言。そして日本のプラットフォーマーに向けて、若い世代のユーザーが10年後に「Webtoonの作家になりたい」と飛び込んだ際に、きちんと活躍できる場所を維持していてほしいと、編集プロダクションの立場から要望を伝えた。

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