IMART2021オフィシャルレポート(前編)

2021年2月26日・27日の2日間にわたり、マンガ・アニメ業界のボーダーレス・カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima 2021」(IMART 2021)がオンライン開催された。
本記事では、その第1日目全セッションのオフィシャルレポートをお届けする。

 

【特別講演】 解説「侵害コンテンツのダウンロード違法化」&「リーチサイト規制」

10:00-11:00  配信A会場  動画ページ

IMART2021初日の開幕を飾る特別講演には赤松健氏と福井健策氏が登壇。マンガの海賊版サイトの現状や、2020年に成立した改正著作権法について解説した。
まず赤松氏はリーチサイトの手口を紹介。サイトにはコンテンツを置かず、海賊版がアップロードされたURLだけを掲載することで違法性を問われないようにしていたという。しかし’20年10月の「リーチサイト規制」と、’21年1月の「侵害コンテンツのダウンロード違法化」の施行によって早急な対応ができるようになったことを説明した。さらに漫画家の立場から見た海賊版の問題点や、日本漫画家協会が改正著作権法にどう関わってきたのかなど、さまざまな話題に触れた。
福井氏はリーチサイトがある程度抑制できているのに対し、ダウンロードを伴わないストリーミング型の海賊版サイトへのアクセスが、過去最大のペースで増加していることを指摘。サイトは匿名性の高い海外サーバに置かれており、日本のマンガが明確にターゲットにされているという。ストリーミング型の海賊版サイトにどう対応するのかが、今後の課題になるだろうと語った。

 

本セッションではTwitter Japanの久保沢しおり氏と石橋宗樹氏、キャラクタービジネスに強いアニメ製作を手がけるファンワークスの高山晃氏を迎えて、SNSでアニメを活用するためのヒントを探った。
久保沢氏と石橋氏のプレゼンではTwitterが収集したデータを公開。日本のTwitterユーザーの平均年齢が36歳であることや、78パーセントがTwitterを使いながらテレビを視聴したことがあるなど、具体的な数字を示しながらユーザー層を解説した。久保沢氏はTwitterについて「Tribe(共通の興味関心や好きなことを通して集まった仲間)がいる場所」だと表現。ユーザーは興味関心によって繋がっており、その熱量や拡散力は、企業がTwitterを活用する上で大きなパワーを秘めていると話した。
ファンワークスは同社が得意とするショートアニメを紹介。SNSが普及する2005年にブームを起こした『やわらか戦車』やBBCやニューヨークタイムズなど海外でも取り上げられた『アグレッシブ烈子』などが、どのように話題を得たのか解説した。また中国では本編が数分に満たない短尺動画のニーズが伸びていることも取り上げ、今後はSNSでどう連携するのかがテーマになってくるだろうとコメントした。

 

マンガテック2020中間報告 漫画とスタートアップ

11:30-13:00  配信A会場  動画ページ

集英社のスタートアップ アクセラレータープログラム「マンガテック2020」は斬新な事業アイデアを持つスタートアップ企業と共に、新たなビジネスを生み出す共創プログラムである。昨年の募集では、100件という目標を大きく上回る対334件の応募を獲得。とくに20代の応募者が多く、森通治氏は「若い才能のアイデアに触れられたことが刺激になった」と振り返る。その後の審査を経て、最終的には5件が採択された。
今回はスタートアップの中から、Mantra株式会社の石渡祥之佑氏が登壇。Mantraはマンガに特化したAIベンチャーで、世界最高精度のマンガ機械翻訳、マンガOCRの技術を持つ。「マンガテック2020」ではマンガで外国語が習得できる「Langaku(仮)」を開発中。AI技術を用いた画像処理や自然言語処理を加えることで、マンガを多読学習の英語教材に変えて、効率的に学べるようにするサービスだ。2021年にはオープンβの実施を予定している。セッションではプログラムに参加した石渡祥之佑氏も交えて、「マンガテック2020」の利点や課題など、幅広い話題が語られた。

 

本セッションでは2013年にサービスを開始した電子マンガサービス・LINEマンガの多彩な取り組みを紹介。その中でも縦スクロールマンガへの挑戦について多くの時間が割かれた。LINEマンガは2020年にWEBTOON Entertainmentの傘下に入ったことで、世界150ヵ国以上でコンテンツを展開可能に。世界を見据えたコンテンツを作る上で、縦スクロールマンガがハードルを越える可能性を秘めているという。
マンガは日本では右から左に読むものだが、欧米では逆向きなど文化の違いが存在する。しかし縦スクロールマンガは複雑なコマ割りが存在しないため、国を問わず可読性が高い。さらに有名なタイトルがまだ少ないため、新人作家も参入しやすく、若手特有の読者に近い感覚もコンテンツを生むのに役立つ。若手作家にとってネーム修正は最大の難関だが、縦スクロールマンガはコマの足し引きが容易で、新しい演出を切り拓く面白さもある。
それゆえにLINEマンガでは、縦スクロールマンガを全世界のスマホユーザー向けに特化した巨大な入口戦略と位置付けている。そこを足がかりに、今度は横読みのマンガも楽しんでもらうことでヘビーユーザーを生み出す決定打に繋げたいと意気込みを見せた。

 

0から1,000万MAUの読者を獲得したand factoryの開発ノウハウ5選

13:00-13:15  配信B会場  動画ページ

and factory社は8つのマンガアプリをパートナー企業と共同運営しているIT企業である。2020年8月にはアプリの総合月間アクティブユーザーが1000万人を突破した。セッションでは代表取締役社長の青木倫治氏が登壇し、開発ノウハウを解き明かした。
マンガアプリは数パーセントのクリック率の違いが数十万人の読者の差に繋がることから、1作品に対して最低5パターン以上のバナーを作成。その中でどれが最も効果的なのかを探ることで読者の増加に繋げた。そのほか、作品とユーザーの出会いを促進する仕組みや、ユーザーのストレスを減らして継続的に使ってもらうためのテクニックも一部披露。青木倫治氏はand factory社のテクノロジー、マネタイズ、デザインの力を駆使して、日本のマンガ文化の成長に寄与したいと意気込みを述べた。

 

本セッションでは独立系出版エージェント企業の代表取締役が登壇。それぞれの現場での体験談や、今後の目標などを、マンガ業界の現状を踏まえながら解き明かした。
まずはエージェントの仕事について、石原史朗氏は2020年の夏頃から電子ストアがオリジナルタイトルを手がけることが増えており、作品提供の依頼が多くなったとコメント。鈴木重毅氏もそれに同意し、電子専門の媒体が非常に増えているという実感を語った。作品を発表する場が広がっていることで、エージェント業の需要も高まりを見せている。
石原氏、鈴木氏は出版社でマンガ誌の編集長を務めていたというキャリアを持つ。独立した理由の一つとして、石原氏は電子書籍であればワンルームでも仕事ができる点を挙げた。紙の場合は印刷業者や流通と契約しなければならず、在庫の管理も大きなリスクになる。やり甲斐に関しては、鈴木氏が「久々に新人さんを担当できているのが楽しい」と笑顔を見せた。マンガ家と向き合って作品をつくれる喜びを語り合うなど、マンガエージェントの起業を考えている人にとても有意義なトークが見られた。

 

作り手目線でのデジタルアーカイブの活用&文化庁主催「MAGMA sessions」実施報告

13:30-14:30  配信B会場  動画ページ

文化庁主催のアーカイブ事業「MAGMA sessions」はマンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートのアーカイブの現状を知り、これからを考えるイベントサイトである。本セッションでは事業の取り組みについて説明しながら、効果的なアーカイビングの手法や創作面での利活用の可能性を探った。
山川道子氏はアニメの作り手が求めるアーカイブについてプレゼン。現状ではアーカイブの利用は、クリエイターが技術を磨くための勉強用や、作画・演出を新規発注する際に担当した過去作品での仕事を事前調査するためなどに限られている。今後はクリエイター自身がポートフォリオなどを制作するためにデータを利用したり、複数の会社間で画像や情報の閲覧を共有したり、利用による利益をクリエイターに還元したりという未来が想像できるという。
小沢高広氏はマンガの場合はアニメに比べると少人数で作られているため、保存以上の価値をどこに見出すのかが難しいとコメント。また連載をしながらアーカイブをするのは負担がかかるという問題もあり、第三者が管理するといった仕組みの必要性を語った。アニメ、マンガの立場から意見交換がなされ、新たな課題も浮かび上がるなど、ディスカッションも充実したセッションであった。

 

世界1000万DL・マンガ制作アプリCLIP STUDIO PAINTの海外事情

14:30~14:45  配信A会場  動画ページ

イラスト制作アプリのCLIP STUDIO PAINTを開発するセルシス社は、海外マーケティングを進める中で現地の創作環境についてのデータを収集している。本セッションではその市場調査の結果を報告した。
ドイツではアナログだけで絵を描く人は全体の26パーセント。4分の3のユーザーは何らかの形でデジタルを利用しており、この傾向は欧州全体でも同じだという。ただマンガを描く人は多いもののマンガを専門に学べる場は少なく、ユーザーの中には絵画や芸術学を専攻している人が目立つ。著名なクリエイターの中には最初はマンガ家を目指していたが、別の道で大成したという人もおり、もしマンガを続けられる環境があれば結果は違っていたのではないかと推測する。
そこでセルシス社では「国際コミック・マンガスクールコンテスト」を毎年開催。応募者に講評でフィードバックもしており、マンガを学べる場としての役割も果たしていることが理解できるセッションとなった。

 

【WACOMスポンサードセッション】 LOTTEガーナチョコレート「Gift」に見る、アニメーションMVの表現と可能性

15:00-16:15  配信A会場  動画ページ

LOTTEのバレンタインキャンペーンとして制作されたアニメーションMV「ガーナ Gift篇」のメイキングセッションでは、監督の依田伸隆氏とキャラクターデザイン・作画監督の押山清高氏が登壇、その演出・表現を豊富な具体例とともに解説した。
まず本作のキービジュアルを元に、アニメーション制作の基礎的な工程を説明。次にそこで紹介されたワークフローに沿い、本編の映像がどのように作り込まれていったのかを、設定・デザインから、ビデオコンテ、レイアウト・原画、撮影まで、実際に使われた制作素材をふんだんに披露しながら語り合った。
依田氏は、本MVでは現在の社会情勢を踏まえて「情報密度の高いエネルギッシュなものよりも、落ち着いたテンポ感のカット割り」を心がけたというが、それは長回しを作画の力で魅せられる押山氏の参加によってはじめて実現できたことだと強調。それに対して押山氏は、依田氏が代表を務める10GAUGEが手がけた「撮影」という、ビジュアルエフェクトを付与するセクションのこだわりに言及。撮影効果によるbefore/afterの比較を交えながら、画面の細部にまで至り、作品の情感が繊細に演出されている様子が語られた。
また本作はワコム社の液晶タブレットを用いて制作されたことから、二人がワコム社の轟木保弘氏に使い心地や要望を伝える一幕も。ボーダーレス・カンファレンスの「IMART」らしい、意見交換の場としての役割も果たした。

 

“マンガ動画元年”を終えて考える、マンガ動画の過去、現在、未来

15:00-16:15  配信B会場  動画ページ

「マンガ動画」はマンガにBGM、効果音、声などを加えて、1コマずつ見せる動画コンテンツのこと。動画ではあるが、アニメのように絵を動かす必要はないため、製作コストを抑えられるのが特徴だ。2018年頃からYouTubeで流行り、現在では企業がマンガ動画チャンネルを開設するほどの盛り上がりを見せている。
芹田治氏は『最響カミズモード!』のマンガ動画を紹介。TVアニメが放送されているタイトルだが、マンガ動画ではサイドストーリーを描くことによって、アニメでファンになったユーザーを取り込んだ。動画自体のクオリティも高く、多彩なエフェクトが盛り込まれている。
それに対して井本洋平氏は、AIを活用して既存のマンガを動画に自動変換するサービスに言及。声や音も入っておらず、読みやすさに特化した内容で、マンガを読んだことがない新たなユーザー層を開拓するのに役立っているという。同じマンガ動画でも対照的な作り方であり、井本氏は「今後はマンガ動画もいろいろと派生していくと思う」と展望を語った。
視聴者からは「マンガ動画に向く絵柄やジャンルは?」との質問が。総再生数8000万を超える漫画家、晴十ナツメグ氏は少年マンガ風など一般層向けの方が強いとコメント。受け入れやすい絵の方が最初のクリックをしてもらいやすいと実感を伝えるなど、クリエイターからの視点も盛り込みながらディスカッションが展開された。

 

クリエイター、編集者、プロデューサーの「あの日」と「これから」

16:30-18:00  配信A会場  動画ページ

本セッションでは業界の第一線で活躍するクリエイター、プロデューサー、編集者が登壇。それぞれがどのような試行錯誤を経て、現在の仕事にたどり着いたのか、赤裸々なトークを繰り広げた。
序盤は「クリエイター・プロデューサー・編集者になったと感じた日」をテーマにトークを展開。芦名みのる氏はクリエイターは作品を終えたときは「もっと上手くできたはず」という気持ちがあるため、「なれた」という実感は生まれにくいと打ち明ける。ただ業界の先輩に褒められたり、叱られたりする経験が積み重なっていくことで、少しずつ手応えを得ていったという。
今井雄紀氏は「編集者である以上、そのジャンルを代表する本を作りたい」という気持ちがあったと告白。トリガー取締役の舛本和也氏の『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』や、声優の大塚明夫氏の『声優魂』を手がけたときの逸話を披露した。
「師匠と呼べる人は?」という話題では小形尚弘氏が富岡秀行プロデューサーの名前を挙げ、サンライズはプロダクションとして長い歴史があるため、制作の魂が受け継がれている側面があるとコメント。さらに新人時代に富野由悠季監督と一緒に仕事をしたときのエピソードなど、ここでしか聞けない話が多数飛び出した。

 

女性のプロデューサー、研究者の視点からアニメ業界の就労環境やキャリアづくりなどについて議論をした本セッション。「ロールモデルになる先輩は存在したのか」という質問について、柳川あかり氏は東映アニメーションには近い世代にも女性プロデューサーがいたため悩むことはなかったが、業界全体ではロールモデルが見つからない人も多いのではないかとコメント。
竹内文恵氏は海外の映画祭に参加した際に、そういったルールが定められていなくても、カンファレンスの登壇者が男女で同じ比率になっていたことに触れた。柳川氏も海外では登壇者の中に女性が当たり前のように存在するところが日本とは異なると同意し、そういった環境が当たり前になれば、ロールモデルが見つからない女性も少なくなるだろうと語った。
セッションでは柳川氏がプロデューサーを務め、多様性をテーマの一つにした『スター☆トゥインクルプリキュア』も話題に。須川亜紀子氏は「プリキュア」シリーズについて、「女性に対するエンパワーメントを、忠実かつ時代に沿って描いている」作品だと高く評価した。最後にモデレーターの川俣綾加氏は、本セッションの登壇者が全員女性だったことに触れ、こういった問題は本来は男性も関係することであり、今後は男女を交えてきちんと話し合える場ができることを望んだ。

 

【基調講演】 デジタルアニメーションにおけるクリエイティブと経営

18:30-19:30  配信A会場  動画ページ

開催初日を締めくくる基調講演には、ポリゴン・ピクチュアズ(PPI)代表取締役社長の塩田周三氏が登壇。国内外で多彩なタイトルを手がける3DCGスタジオ・PPIの成功と躍進の秘密を解き明かした。
PPIは1983年に創業した老舗CGスタジオだ。塩田氏は2003年に3代目の社長に就任したが、「PPIには創業者の河原敏文のDNAが受け継がれている」とコメント。河原氏が日頃から口にしていた「誰もやっていないことを、圧倒的なクオリティで、世界に向けて発信していく」という3つの理念を、現在もミッションステートメント=社訓としていると語る。
講演では「誰もやっていないこと」として、河原氏が80年代後半に立ち上げた「ビッグバンプロジェクト」に触れ、当時のCGでは不可能だった柔らかい動きを実現するために苦心した歴史を振り返った。「世界に向けて発信していく」ことについては、PPIの名刺は創業当初から表が英語で書かれていることを紹介。河原氏が国際的な舞台を土壌にする意思があったことを伝えた。
塩田氏は「誰もやっていないこと」も、「圧倒的なクオリティ」の定義も、「世界」の中でどの国に発信するべきなのかも、時代によって変化するため、これらの理念は「絶対に完成しないものだ」と断言。それを社訓に掲げて、つねに自問自答することを大切にしていると信念を述べた。

 

IMART2021オフィシャルレポート(後編)

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