IMART2021オフィシャルレポート(後編)

2021年2月26日・27日の2日間にわたり、マンガ・アニメ業界のボーダーレス・カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima 2021」(IMART 2021)がオンライン開催された。
本記事では、その第2日目全セッションのオフィシャルレポートをお届けする。

 


第1回のIMARTでも行われた「個人作家のキャリアデザイン」の第2弾には、アニメーション作家の山村浩二氏とプロデューサーの岡本美津子氏が登壇。東京藝術大学で教育にも携わる二人のキャリアを振り返りながら、時代によって求められるものが変化するキャリアデザインに迫った。
山村氏は中学生のときの自主制作アニメから現在制作中の最新作『幾多の北』まで、40年以上にわたって作品を作り続けてきた経歴を紹介。絵本作家としての活動やプロデュース業まで行うなど、モデレーターの土居伸彰氏が「唯一のキャリアデザイン」と舌を巻くほどの内容を披露した。
岡本氏はプロデューサーとして『デジタル・スタジアム』や『テクネ 映像の教室』などの番組を企画。番組制作を通じて個人作家たちに活躍の場を提供してきた。ディスカッションでは土居氏も交えて、キャリアデザインに対する意識や、プロデューサーに必要なもの、個人作家のポテンシャルをどう活かすのかなど、さまざまな課題をめぐり語り合った。

 

2020年から続く新型コロナウイルス感染症は、とりわけライブ分野に大きな影響を与えた。本セッションでは同人誌即売会のコミティア、新千歳空港国際アニメーション映画祭、コンテンツツーリズムの聖地会議の関係者が登壇。その現状と課題を語った。
中村公彦氏は中止となったコミティアの開催予定日に、Twitterのハッシュタグ「#エアコミティア」を用いて参加者の交流を図ったことに触れた。このネット上での運動は日本のTwitterのトレンド1位を獲得するほど話題になり、新たな層にリーチできたという。新千歳空港国際アニメーションは実地と配信のハイブリッド形式で開催。計150作品以上を配信し、再生数は10万を超えるなど大きな反響を得た。
その一方で、柿崎俊道氏は「聖地会議EXPO2020」を渋谷で自主開催したことを紹介。他社のイベントに出展する場合は開催・中止の判断も委ねることになる。それならすべてを自分で決めた方がいいだろうと考えて、ライブ配信も含めた企画を展開していくなど、三者三様の取り組みが紹介された。

 

2020年公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』はTVアニメの続編となる劇場版でありながら、日本映画の歴代興行収入を塗り替える大ヒットを記録した。本セッションでは一本の映画としては完結しない、非自律的な劇場作品が注目を集める中で、「世界観構築」をキーワードに批評的観点からエンタテイメントの動向を探った。
まず渡邉大輔氏は映画論・メディア論の分野における世界観構築=World Buildingというコンセプトの歴史的な成り立ちと展開を解説。都留泰作氏は文化人類学者としての研究活動とマンガの実作者・教育者としての視点を交えながら、エンタメの重点がキャラクターから世界観に移ってきていることに触れた。それらを受けて石岡良治氏は、シリーズものは提示された世界観=作品の構造が、物語の進展とともに変容していくダイナミズムが魅力なのではないかと推測する。ディスカッションでは『スター・ウォーズ』や『マトリックス』、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)といったシリーズものの映画、さらには宮崎駿監督のアニメーションやジャンプマンガなど、複数のメディアを横断しながら、視覚・映像文化史の流れに迫った。

 

本セッションでは海外企業との仕事も多いCG映画監督の荒牧伸志氏と、動画プラットフォーム・クランチロールのジュリアン・ライハン氏が登壇。日本と海外の両方の視点からアニメーションの可能性についてディスカッションした。
荒牧伸志氏は、2004年に3DCG作品『APPLESEED』を手がけ世界中の映画祭に参加したことで、海外に多くのアニメファンが存在することを知ったと振り返る。現在共同監督として制作中の『ブレードランナー - ブラック・ロータス(仮)』も、約半数のスタッフが日本国外出身の多国籍な現場だという。こういった状況が生まれていること自体が、アニメの世界的な広がりの証拠であり、今後はより当たり前になっていくのではないかと実感を語った。
ジュリアン・ライハン氏は、世界で「アニメと言えばクランチロール」という認識が広まっていると強調。クランチロールは現時点ですでに登録ユーザー数1億人を突破しているが、動画配信は成長の余地がある分野で、どんなデバイスでも視聴可能な環境が整えば「10億人(one billion)を達成する可能性がある」と語る。アニメ作品とその面白さを届けることで、これまで以上にファンを広げていきたいとメッセージを伝えた。

 

急成長中!「クリエイターに直接課金する」サブスク最新事情

13:30-14:30  配信B会場  動画ページ

アメリカで生まれたクリエイター支援プラットフォームは、日本でもさまざまなサービスが立ち上がり、右肩上がりで成長を続けている。最近では収入のコアをサブスクリプション(定額課金)に置くクリエイターも増えてきた。本セッションではサブスクの歴史からシステム、その未来を解き明かした。
野田純一氏はFantiaについて具体的な数字を挙げながら解説。2021年1月末時点でのクリエイター平均支援金額は、有料プランを開設しているファン数1000人以上のクリエイターの場合は164,962円/月、100人以上だと59,556円/月であることを紹介した。2020年はコロナ禍によって即売会などのイベントが中止になる状況も多かったため、クリエイターからは「生活が安定して創作に集中できるようになった」という声も聞かれたという。福西祐樹氏も2018年12月のGANMA!プレミアム開設以降、サブスク収益は順調に拡大しており、前年同期比で約1.5倍を記録したことを明かした。
ディスカッションでは、投げ銭と呼ばれる直接課金(ギフティング)や、プラットフォームのコミュニティによって新たなファンが生まれる可能性など、幅広い話題が語られた。サブスクリプションという新たな消費行動について理解が深まるセッションとなった。

 

「第1回ANiCイノベーターアワード」は2020年にアニメのイノベーションを促進した功労者を表彰するアワードである。約30の個人・団体を「影響・波及」「ゲームチェンジ」「展開可能性」の三つの観点から審査し、ニューウェイブ賞、カルチャー・トレンド賞、そしてグランプリの3賞をセレクトした。
ニューウェイブ賞はMyDearest 株式会社 代表取締役CEOの岸上健人氏が受賞。VRゲーム『ALTDEUS:Beyond Chronos』を発表し、クラウドファンディングでは2000万円の資金を調達するなど、アニメとも関係の深いVR市場を牽引したことから選ばれた。
カルチャー・トレンド賞は該当なし。その経緯について、2020年はYouTubeと音楽・小説を組み合わせたコンテンツが目覚ましい発展を遂げたため、その立役者を表彰する予定だったと説明する。しかし「ANiCイノベーターアワード」は可能な限り個人を表彰するという方針のため、前例がない領域で誰に賞を渡すべきなのかという問題が生じたそうだ。平澤直氏は「言い方を変えれば、それだけ多くの方々が一気に始めている分野」だと活発な状況についてコメントした。
グランプリはユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクターの大前広樹氏。ゲームエンジンのUnityがアニメをはじめ幅広い分野で活用されていることが受賞理由となった。

 

マンガ・アニメ 海外最新事情いま世界のエンタメ業界で何が起きているのか

15:30-16:30  配信B会場  動画ページ

セッションは椎名ゆかり氏による北米における日本マンガの状況の解説からスタート。近年はマンガの売上が伸びており、2021年の売上ベスト20の上位は「週刊少年ジャンプ」連載タイトルがほぼすべてを占めていることを紹介した。これはアニメ配信サービスの影響が強く、マンガはアニメの関連グッズとして読まれているという。
またアメリカのデジタルマンガ市場はコロナ禍によって急伸したと推測する。とくに縦スクロールマンガのデジタルコミックサイトの伸びが大きく、広告収入サイトの人気がアップした。そして独立系プラットフォームも続々と参入して購買方法の選択肢も広がった。
マンガの読者をどう増やしていくのかという課題について、堺三保氏は「北米はマンガは子どもしか読まないもの」という社会的な圧力が強く、その状況を打破する鍵はアニメ配信が握っているとコメント。配信プラットフォームではアニメもドラマも横並びで提示されるため、そこでアニメの面白さに気付いてもらえれば、マンガにも関心が広がるのではないかと推測した。
セッションではそのほか、海外の映像配信プラットフォームやアメリカの放送・配信の企業分布など幅広い話題が飛び出した。最後に数土直志氏は「日本のマーケットだけでは成り立たない時代が来ており、多かれ少なかれ海外のパートナーといろいろな形で組むことが生き残り戦略に繋がるのではないか」とエンタメ業界の未来を語った。

 

本セッションではユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏、メディア・アーティストの谷口暁彦氏が登壇。ゲームエンジン・Unityの導入によってアニメーション制作やメディアアートに何がもたらされたのかを紹介した。
大前氏はUnityの普及にあたっては、専門的な勉強をしなくても誰でもゲームを作れる環境を生むことを目指したとコメント。参入ハードルの低さが文化の広さと深みを生み出すと考えたためだという。
谷口氏はUnityによって個人でもゲーム的な映像表現が可能になったことのインパクトに言及。さらにゲームアートというジャンルが発見されたことも大きな貢献であり、2018年に土居伸彰氏とともキュレーターを務めた「イン・ア・ゲームスケープ」展を紹介した。
セッション後半には3DCG長編アニメーション『Away』を一人で作り上げたギンツ・ジルバロディス氏がビデオ出演。制作はUnityではなくMayaによりなされたが、リアルタイムレンダリングが創造性に寄与したことなどが語られた。

 

「ジャンプの漫画学校」は少年ジャンプ+編集部が2020年に開講したマンガ家に向けた創作講座である。本セッションでは企画の背景や講義の内容の紹介、そして第1期の実施報告を行った。
応募者数は当初の想定を大幅に超える約1000名。年齢層は小中学生から50代まで幅広く、まったくの新人はもちろん大ヒット作を持つ著名作家からの応募もあり、最終的には50名を選出した。籾山悠太氏は応募者のレベルが非常に高く、非常に驚いたという。
セッションでは受講者の感想も公開したが、ほぼすべてが満足できる講義だったと回答していた。齊藤優氏は「私たちはデータをもとに話すことができるので、そこに説得力を感じてもらえたならありがたいですね」と、ジャンプのアンケートシステムで蓄積したノウハウが講義でも活かされたと振り返る。
講座を終えた感想として、浅田貴典氏は作家の立っているステージによって有用なアドバイスは異なるため、的確な指導ができるマンツーマンの担当編集制度が優れていることを再認識したとコメント。そしてOBとしての立場から「自立した作家を育てるために、どんなことを提供できるのかを、ジャンプおよびジャンプ+の編集部には頑張ってほしい」と、第2回開催に向けてのエールを送った。

 

スマートニュース「マンガチャンネル」集めて届けるその意義とは

18:00~18:15  配信A会場  動画ページ

「スマートニュース」は日米5000万ダウンロードを超えるニュースアプリである。本セッションでは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」をミッションに掲げる同社の取り組みを紹介した。
今回ピックアップしたマンガチャンネルは、メディアパートナーや企業などの協力を得て開設するチャンネルプラスの仕組みを活かし、ネット上のマンガや関連ニュースを集約。コンテンツの提供者にとっては、スマートニュース上での認知獲得や媒体への送客に繋がるなど、複数のメリットを持つ。松浦茂樹氏は「最終的には作品の購入に結びつくメリットを意識しながら運営している」とコメント。同社はマンガチャンネルを強化ポイントと考えており、今後もさまざまな試みで送客を増やしていくと展望を述べた。

 

【基調講演】ジャパンコンテンツの海外展開

18:30-19:30  配信A会場  動画ページ

IMART2021のフィナーレを飾る基調講演は、日本最大の電子書籍取次であるメディアドゥの溝口敦氏が登壇。日本のコンテンツを世界にどう届けるのか、その戦略について解き明かした。
まず溝口氏は2020年にコミック市場が過去最大の6000億円超、電子コミックは3000億円超を記録し、紙のコミックスも前年に比べて伸びたことに触れる。「デジタルは紙と戦うものでなく、すべての書籍をよりたくさん人に繋げる」ものだという以前からの考えが、ようやく形になってきたと感慨を述べた。
基調講演ではその数字を伸ばしていくために何が必要なのかが語られた。VR電子書籍リーダーやブロックチェーンを活用した新たなビジネスなど幅広い話題に触れる中、多くの時間が割かれたのは、2019年に買収した世界最大のアニメ・マンガのデータベース・コミュニティサイトであるMyAnimeListについてだ。
日本は数多くのコンテンツを持っているが、マーケティングプラットフォームがないため、誰がどこでどんな作品を見ているのかといった情報が得られない。そのためコンテンツを戦略的に送り出すのが難しい状況にあるという。そのためMyAnimeListを拡大するための試みを紹介。さらに12億円の増資を行うことで、日本資本による初のコンテンツマーケティングプラットフォームを構築したいと、今後の展望を語った。

 

IMART2021オフィシャルレポート(前編)

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